テーマのあるスイーツ旅

長崎市の「出島和蘭商館跡」。
長崎から砂糖文化が伝わり、長崎街道とともに花開いた

気持ちのいい秋晴れの日は長崎街道シュガーロードへ

気持ちのいい秋晴れの日は長崎街道シュガーロードへ
2020年6月、長崎・佐賀・福岡を中心とした「砂糖文化を広めた長崎街道~シュガーロード~」が日本遺産に登録されました。江戸時代以降、南蛮から伝わった砂糖や技術によって、それぞれの土地の特色を生かしながら発展した長崎街道沿いの菓子文化。その中で根付いたお菓子の発祥のお店や、今話題のお店をご紹介します。気候が穏やかな今の時期は、九州とスイーツの歴史、甘さを堪能する旅に出かけましょう。
文/松尾好江(ランズ)
長崎街道シュガーロード

長崎街道シュガーロードをおさらい

江戸時代、ヨーロッパや中国との窓口だった長崎・出島。ここで荷揚げされた砂糖は、京や大坂、江戸などへ運ばれていました。その時、砂糖とともに菓子作りの技法なども取り入れられたのです。長崎街道には25の宿場町が集い、長崎に近い街道沿いでは、砂糖をたっぷりと使う南蛮菓子と、土地の文化と風土が混ざり合い、カステラをはじめとした個性あふれるさまざまなスイーツが誕生していきました。
長崎県長崎市
白水堂
思案橋本店の奥にある「和風喫茶 志らみず」では、ミルクセーキやぜんざいなどの甘味がいただける

Spot01 白水堂

砂糖と卵をふんだんに使って作られ、
濃厚な味わいのカステラ

貿易の起点となった出島がある長崎市。かつては、卵を食べることは宗教的に禁忌とされていましたが、西欧から砂糖に加えて卵を食べる文化も輸入されました。ポルトガル人から伝えられたカステラは、砂糖と卵をたっぷり使って作られ、今の姿へと進化していきます。明治20(1887)年創業の白水堂は、卵黄と卵白の割合を5対3にして、濃厚な味を楽しめる「五三焼かすてら」をはじめとした和菓子を製造しています。今年、疫病除けに効くとされる妖怪「アマビエ」が人気に。白水堂でもそれにちなみ、アマビエをモチーフにした和生菓子と「桃かすてら」を販売しています。

白水堂 思案橋本店 住所/長崎県長崎市油屋町1番3号
営業時間/9:30~18:30
休/不定休
アクセス/電車:長崎電気軌道思案橋駅から徒歩約2分
車:長崎バイパス川平ICから約15分
電話/095-826-0145

白水堂
カステラの上に不老長寿の果物とされる桃を砂糖細工であしらい、縁起菓子として親しまれている「桃かすてら」。大、小、こももと3つのサイズがある
白水堂
「長崎五三焼かすてら0.65号」(1,080円)。和三盆糖を使い、ザラメもたっぷり
白水堂
江戸時代の妖怪「アマビエ」をかわいらしくかたどった和生菓子は、すべて手作り(6個入り2,268円)
菓秀苑 森長
米どころの諫早平野には田んぼと農地が広がる
長崎県諫早市
菓秀苑 森長
サクサクとした食感で食べやすい一口サイズでいちご、アーモンドキャラメル、黒ごまみそ、うめなどのフレーバーが楽しめる「Puchi OKOC (ぷちおこしー)」(各356円)
菓秀苑 森長
手延べの工法を再現した「復刻版黒おこし」。溶けきれなかった黒砂糖が生地の中に残り、噛むと黒砂糖の素朴な味わいを楽しめる
菓秀苑 森長
昭和初期に諫早駅に飾られていた木製看板

Spot02 菓秀苑 森長

米×砂糖で生まれた「諫早おこし」を
モダンな味わいでも

諫早は、江戸時代から始まった干拓によって新田開発が活発に行われ、米が豊富に採れるようになりました。また、長崎・出島の近くにあり、砂糖を入手しやすい環境でもありました。そのような土壌で生まれたのが「諫早おこし」。蒸したうるち米を長崎特有のかん水「唐アク」に漬け込み、天日干しをして数カ月寝かせて炒った乾飯(ほしいい)を水あめで固めたものです。寛政5(1793)年創業の菓秀苑 森長は、同年に創業当時から受け継がれてきた製法に、黒砂糖を混ぜたことで「森長おこし」を誕生させました。いちごなどさまざまなフレーバーがあり、一口サイズで食べやすい「Puchi OKOC(ぷちおこしー)」も人気です。

菓秀苑 森長 八坂町本店 住所/長崎県諫早市八坂町3-10
営業時間/9:00~18:00
休/1月1日
アクセス/電車:島原鉄道本諫早駅から徒歩約10分
車:長崎自動車道諫早ICから約15分
電話/0957-22-4337

菓秀苑 森長
昭和5(1930)年に建てられた本店
村岡総本舗
本店に隣接する「村岡総本舗羊羹資料館」は、昭和16(1941)年に建てられた
砂糖蔵を改装したもの。れんが造りのレトロな洋館が特徴

Spot03 村岡総本舗

羊羹屋が点在する小城で
文化や歴史とともに味わう

小城と言えば「小城羊羹」と言われるほど全国的にも有名ですが、それは、この地域が羊羹の原料となる小豆やきれいな水などが手に入りやすい環境だったから。また、城下町でもあったことから茶道の文化も発達しており、茶菓子として羊羹がよく使われたことも理由の一つです。現在でも、人口35,000人ほどの市内に、20軒以上の店が点在しています。明治32(1899)年創業の村岡総本舗で、江戸時代から続く伝統的な製法で作られる「小城羊羹・特製切り羊羹」は、煉りあがった羊羹を型に入れさまして固め、一昼夜寝かせることで、余分な水分を飛ばします。これによって、外側は砂糖のシャリっとした歯触り、中は柔らかい羊羹になるのです。本店には羊羹資料館が隣接しており、羊羹の歴史や製造工程が学べます。

村岡総本舗本店 住所/佐賀県小城市小城町861
営業時間/9:00~18:00
休/なし
アクセス/電車:JR唐津線小城駅からタクシーで約5分
車:長崎自動車道小城スマートICから約2分
電話/0952-72-2131

村岡総本舗
佐賀県のほぼ中央にそびえ立つ天山。同店の餡は天山山系からの名水でつくられており、キレのあるスッキリした甘さに
佐賀県小城市
村岡総本舗
カステラと自家製餡、伝統製法の切り羊羹の5層からなる「シベリア」(486円)は、やわらかな食感を楽しめる
村岡総本舗
特製切り羊羹は「小倉」「紅煉」「本煉」「きびざとう」「抹茶」「青えんどう」の6つの味で(各800円)
千草ホテル
明治32(1899)年に建てられた「官営八幡製鐵所 旧本事務所」
福岡県北九州市
千草ホテル
“鉄”にちなんだスイーツとして、黄金色をした8mmの小粒サイズで、鉄の味がする金平糖・「鐵平糖」が誕生した(432円)
千草ホテル
バングラデシュ・アジア美術ビエンナーレ最高賞を受賞した江上計太氏による壁画が描かれた「ダイニングカフェチグサ」で鐵平糖が販売されている
千草ホテル
長崎街道の起点(終点)である常盤橋。現在の橋は木で作られ、江戸時代の橋を再現している

Spot04 千草ホテル

鉄の街で話題の鐵平糖(てっぺいとう)

長崎街道の起点(終点)である北九州市。布教活動を行うためにポルトガルから来た宣教師ルイス・フロイスが、織田信長に献上したことが日本における金平糖の始まりだと伝えられています。明治以降は、北九州の周辺では石炭採掘や製鉄業が盛んになり、そこで肉体労働に従事する人たちのエネルギー補給として甘味が重宝されてきました。そうした背景の中、平成27(2015)年、産業遺産群の1つとして「官営八幡製鐵所関連施設」が世界遺産に登録されたことを記念して、千草ホテルが「鐵平糖」を開発。製造は西日本で唯一金平糖を作っている入江製菓が請け負い、回転する大きな釜で14日間かける、伝統的な製法で作られています。

住所/福岡県北九州市八幡東区西本町1丁目1-1
アクセス/電車:JR鹿児島本線八幡駅から徒歩約10分
車:北九州都市高速4号線大谷JCTから約5分
電話/093-671-1131

千草ホテル
ホテルがある八幡地区は、「官営八幡製鐵所」が創業した地であり、近隣の住民の親族には必ず製鉄関連企業で働いていた人がいるほど、製鉄との繋がりが深いのだそう