【渋谷】どんな映画もカクテルに変身する魔法のBAR「八月の鯨」|映画ソムリエ東紗友美と巡る魅惑の映画スポット
鋭い女子目線で映画を解説する映画ソムリエ・東紗友美さんが、映画好きならきっと心がときめく魅惑のスポットをご紹介。今回は、映画ファンに愛される渋谷の老舗BAR「八月の鯨」を訪れました。ここは、どんな映画も“カクテル”になる魔法の空間。いったいどんな世界が広がっているのでしょうか……?
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映画好きの五感を満たすBAR「八月の鯨」
心がいつもよりほそくなってしまいそうなとき、お酒と映画のマリアージュ、その組み合わせに何度も救われてきました。どちらも人生に欠かすことはできない存在です。
東京・渋谷にある「八月の鯨」は、まさに、お酒を楽しみながら映画の世界に浸れる場所。映画好きであれば、一度はその名を聞いたこともがあるかもしれません。一人で行くのも、気兼ねない友人と行くのも、恋人と行くのも良い。映画を愛するものの五感を満たす映画BAR「八月の鯨」を今宵はご案内します。
同名タイトルの映画『八月の鯨』(1987)は、アメリカ・メイン州の小さな島の別荘で夏を過ごす老姉妹と、彼女たちを取り巻く3人の老人たちが織り成す人間模様を描いたドラマ。「アメリカのファーストレディ」と呼ばれ愛され続けたサイレント映画スター、リリアン・ギッシュが、90歳を越えているとは全く思えないみずみずしい名演をみせてくれる感動作です。島が舞台というだけあって風景美を堪能しつつも、老人たちのなんともかわいらしい映画で、気付けば刻まれたシワの一つひとつまでも愛でてしまいたくなる……そんな素敵な作品なんです。
そんな映画の公開から3年後、1990年に渋谷に創業した「八月の鯨」は、映画のタイトルがそのままカクテルのメニューになった、映画をモチーフとしたBAR。
~人生の半分はトラブルで、あとの半分はそれを乗り越えるためにある~
劇中のリリアン・ギッシュの語る台詞が有名な映画だけに、ちょっとした悩みなんかも、このお店ならば包んでくれそうな予感。
ビルの2階と地下1階がこのお店で、今回は地下1階の方へ。日常から非日常へと向かう階段に、映画館に向かうときと同じように足取りが軽やかになる気がします。
店内に入ると、色とりどりのお酒の瓶、随所に飾られた映画ポスターが飛び込んできます。映画とお酒好きならおそらくここで体温が0.5度上昇するのは間違いないし、「うっとり」が入口になるのは、映画もBARも同じかもしれません。
映画カクテルはなんと2000以上
そして、80種類以上の映画のタイトルが表記されたメニューにびっくり! 往年の名作からハリウッド大作、ヨーロッパ映画、アート系と呼ばれる作品、そして邦画まで。その豊かなラインナップにはシンプルに感激。舞台となった街並み、主人公たちの表情、一瞬にして、これまで観てきた映画が脳内をトリップします。
さらに驚いたのが、メニュー表以外にも、映画のタイトルさえ言えば無限にお酒のメニューを作ってくれるという点。ざっと2000メニュー以上はあるのだそう。選択肢が豊富なほど、気分も豊かになるわけで、これはもうテンションが上がっちゃいます。すでに一杯目をどれにしたらいいのか迷ってしまいます。あまりにも幸福な悩みだ……。
わたしは“旅”を切り口に3種のカクテルを選んでみました。4人の少年たちのひと夏の冒険旅を描いた不朽の名作的青春映画『スタンド・バイ・ミー』(1986)、友情の生まれる旅を描いた『グリーンブック』(2018)、すれ違う恋人たちを描いた人生の旅路のような群像劇『恋する惑星』(1994)の3品をオーダー。
カクテルは映画のタイトルから浮かんだものだったり、ワンシーンにオマージュを捧げられたものだったり、映画の中のテーマカラーを使用したものだったり、生まれた意味はさまざまだそう。「なぜ、このカクテルになったのだろう」と想像するのも楽しいですね。
今回、お店をご案内いただいたバーテン小川さんによると、マイベスト映画のカクテルの味が必ずしも、マイベストカクテルとなるとは限らないこともあるのだとか。それもまた、一期一会の映画との出会いのように、興味深い。
最初の一杯は好きな映画にするのがストレートな頼み方かもしれないけれど、数種類のお酒を頼む場合は、このように映画のジャンル、キャスト、舞台となった都市、監督、公開年などさまざまな切り口でテーマを決めると面白いかもしれません。映画から生まれるテーマは、無限大の宇宙だから。“今宵をどんな夜にするか”自分の中でテーマを決めて、お酒を頼むのもおとなの遊びみたい。
旅が好きな人なら、映画で世界旅行を楽しむのだっていい。お気に入りのワンシーンを思い出しながら、カクテルを味わう。映画がいつもと異なる形で、自分の体の一部となっていく感覚が新鮮でうれしい! 銀幕の魔法は、酔いとともにわたしに静かに、かかっていきます……。
ひそやかな話をしたいときのバーカウンターもあれば、対面で話したいときに向いたテーブル席もあるので、気分に合わせてどうぞ!
旅色読者におすすめのカクテルは……
ここで、いくつのドラマが生まれたのでしょうか。映画トークを題材に彼女を口説いている彼、映画館デートの後に寄った年老いた夫婦、特別なだれかになりたいと願う一人の女子。脳内にひろがる無数の作品タイトルにソフトフォーカスをあてながら、いろんなドラマに想いを馳せます。
心をどこまでも遠くに飛ばす夜、こんな日は妄想が止まらない……。“妄想”といえば、旅色読者のみなさんにおすすめなのがフランス映画『アメリ』(2001)のカクテル。
赤とピンクの彩りがかわいい、幸福要素を満たしてくれるフランボワーズがのったピンクのフローズンカクテル。衣装、インテリア、モンマルトルの町並み……映画に凝縮された“カワイイ”のディテールを思い出します。
このお店のカクテルは、映画に対するイメージが、一瞬にしてこみあげてくるんです。アメリに登場した世界を旅しながら旅行写真を送ってくるキッチュな人形を思い出しながら、わたしもいつしか記憶の旅へ。
フランボワーズの穴に指を入れて食べていた、おちゃめなアメリ。クリームブリュレの香ばしいカラメルをパリっと割る姿の愛らしさ。空想好きな彼女のように、妄想を楽しみながらここで一人飲みを楽しむなんて……!
こんなふうにキュートなこんなカクテルは、真横からも真上からも写真を撮りたくなってしまうからカメラロールを彩るにも最適。バーテンの小川さんによると『不思議の国のアリス』や『星の王子さま』も見た目が可愛らく、女性に人気のカクテルだそうですよ!
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夏の夜のほろ酔いは、明日への原動力。忙しない日々に忘れかけていた「自分らしさ」をいつの間にか取り戻していました。
映画BAR「八月の鯨」は、鮮明な記憶から色あせた記憶まで、引き出しを開けてくれる場所。いつもとはちょっと違う映画体験をしに、ぜひ足を運んでみてください。
◆八月の鯨
住所:東京都渋谷区宇田川町28-13 渋谷門ビル B1F
営業時間:18:00~4:00
電話:03-3476-7238