『花火』
本書は日本各地の花火大会の写真集。秋や冬の開催も載っていますが、暑く湿った空気のなかで打ち上がる熱帯の花々のごとき大輪や、水上から吹き上がる光の乱舞は格別です。サーチライトのように色鮮やかな線が交差する帯広の勝毎から、船のシルエットが下に見える海の日の名古屋、とうろう流しとの共演が素晴らしい福井の敦賀まで、コロナ禍でもこの1冊があれば、おうちで夏の夜祭りが楽しめます。
2,640円/光村推古書院
『宵山万華鏡』
京都の夏と言えば祇園祭。そのクライマックスである宵山が舞台の連作短編集です。祭りは異世界への扉が開く日でもあります。子供をさらう子供たち、出現する偽の宵山、この一夜に囚われた男など、怪異とユーモアと美がブレンドされた六編。読み進むうち、お話が一つになっていくのが読みどころです。また暮れゆく空、連なる提灯、迷子の心細さなど、読み手自身のお祭り体験が蘇るのも魅力的。
※2021年の祇園祭は山鉾巡行や宵山の中止が発表されています
638円/集英社文庫
『夜空はいつでも
最高密度の青色だ』
カリスマ詩人の人気を決定づけた1冊。新年や春の詩もありますが、全体を覆うのは若者らしいヒリヒリした熱さです。特に「夏」「花と高熱」は圧巻。また、あとがきの「世界が美しく見えるのは、あなたが美しいからだ」という一行にシビれます。映画化もされており、シネマのなかの季節は夏! 最もロケが難しいとされる渋谷と新宿で撮られた夜のシーンは見る者の心を溶かすようです。DVDと合わせてどうぞ。
1,320円/リトルモア
『打ち上げ花火、
下から見るか?横から見るか?』
港町で暮らす小学生たちが、誰しも1度は考えるイニシエーション的疑問である「打ち上げ花火はまるいか平面か」をつきとめるべく奮闘します。精神が未熟な状態で様々な困難に直面せざるを得ない、この時期特有の歯がゆさや息苦しさが映し出され、子供時代にタイムスリップした気分に。少年と少女が忍び込んだ夏の夜のプールシーンは、この瞬間、地球上には彼らしかいないと思えるような名場面。水面に反射した光すべてがスポットライトのように2人だけを包んでいて、切なく美しく、永遠に忘れられないでしょう。夏の暑さを消し去ってくれるような清々しさにも癒される名作。
『万引き家族』
「家族って何?」という問いを常々テーマにしている是枝監督が描く、万引きによって生計を立てる擬似家族の物語。切なさ、寂しさ、やるせなさ、愛しさ。あげだしたらキリがないほどの多くの感情が心臓をサンドバックにして、打ちのめされます。自分のもつ全ての気持ちを旅する2時間。納得のカンヌ映画祭のパルムドール! 狭い縁側に“家族たち”が集まって、ビルに囲まれ見えない花火大会の音だけを楽しむ夏の夜。この花火はきっと彼らの瞳に映っていたかもしれないと思える、満ち足りた表情が並びます。花火は心で感じるものなんですね。
『サイダーのように
言葉が湧き上がる』
コミュニケーションが苦手でヘッドフォンをしている少年と、矯正中の大きな前歯を隠すためマスクをしている少女がひょんなことから出会い、SNSを通じて交流をはじめます。この映画は、単なる少年少女向けの青春モノではありません。2人の成長を見届けることによって、自分のコンプレックスもいつしかサイダーの泡のようにどこかへ消える、そんな“自己肯定力増幅映画”です。「アニメ史に残る最もエモーショナルなラスト」と映画業界でも大評判のクライマックスの舞台となるのは、夏祭りの夜。祭りの音が鳴り響くなか、主人公の溢れる想いはまるで鮮やかな花火のように私たちの心の景色に残ります。