ロニホーンの世界を覗き見。作品の中にある自然へトリップ

神奈川県

2021.12.20

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ロニホーンの世界を覗き見。作品の中にある自然へトリップ

目次

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ロニ・ホーンってどんなアーティスト?

“水”を感じる作品たち

探求心に遊び心……ロニ・ホーンの意思や心を感じた作品

おわりに

こんにちは。外はひんやりと冷え、街にはイルミネーションが施され、日々少しずつ冬を感じています。暖かな中でアートに浸れる美術館が恋しくなる季節ですね。

《水による疑い(どうやって)》(部分) 2003-2004年 12点のピグメント・プリント(6組)、メッキされたアルミニウムの支柱、アクリルのグレージング Courtesy of the artist and Hauser & Wirth © Roni Horn Photo: Koroda Takeru

《水による疑い(どうやって)》(部分) 2003-2004年 12点のピグメント・プリント(6組)、メッキされたアルミニウムの支柱、アクリルのグレージング Courtesy of the artist and Hauser & Wirth © Roni Horn Photo: Koroda Takeru

今回は国内美術館初の個展を開催中というロニ・ホーンの世界を覗きに行ってきました。今回も舞台は箱根にあるポーラ美術館です。「水の中にあなたを見るとき、あなたの中に水を感じる? Roni Horn: When You See Your Reflection in Water, Do You Recognize the Water in You?」という神秘的なタイトル、唆られませんか? 「どういう意味だろう?」という疑問から想像が膨らみ、鑑賞後は、一見相反するようで両立する複雑さとシンプルさに刺激を受けました。

ロニ・ホーンってどんなアーティスト?

ロニ・ホーンは1955年生まれのアーティストです。写真、彫刻、ドローイングなどさまざまな形式での表現を試み、現代アートの代表的存在となっています。ニューヨーク在住ですが、1975年に初めてアイスランドを訪れて以降、その風景に魅了されます。アイスランドへの滞在を繰り返したホーンは、厳しく荒涼とした自然と向き合う中で、一人でいることを自ら選択したそうです。

この展示では、近年の代表作であるガラスの彫刻作品を始め、1980年代から今日までの約40年間におよぶ作品群が展示されています。ロニ・ホーン展をより味わい深く鑑賞するキーワードは“水”だそう。一つの概念がさまざまな姿形で表現されるロニ・ホーンの作品は、環境や関わるものによって変化する“水”の性質を思い起こさせます。また東洋思想における水や川は、人間の精神のあり方や無常観を表してきました。水は、しばしばホーンの作品に登場するモティーフやテーマでもあるのだそうです。

人々が孤独を恐れたり、愛や人と人との関わりに暖かさを覚える世の中で、曖昧さや不確かなものを探し求め、表現したのでしょう。きっとロニ・ホーンのその体験が私たち見る側の人間に、展示会タイトルにもある“reflection"の時間を与えてくれるのです。さて、長くなりましたが、早速作品の方を紹介させていただきます!

“水”を感じる作品たち

《無題(「必要なニュースはすべて天気予報から手に入れる。」)》 2018-2020年 鋳放しの鋳造ガラス Courtesy of the artist and Hauser & Wirth © Roni Horn Photo: Koroda Takeru

《無題(「…どの家でも、土間の上、敷物の上、板寝床の上で、村人たちは動かず、黙って横になっていた。その顔は汗だらけ。村全体がさながら深海の底の潜水艦であった—確かに存在はしているのに、声も、動きもなく、生きているしるしがない。」)》 2018-2020年 鋳放しの鋳造ガラス Courtesy of the artist and Hauser & Wirth © Roni Horn Photo: Koroda Takeru

入り口を通ると一番に大きな空間に置かれている丸いパステルカラー。こちらの作品、皆さんには何で作られているように見えますか? 遠くから見ると、私には柔らかいビニールのようなものの中にいっぱいの水が入っているように映りました。……が、すべてガラスでできているんです!

ガラスの表面がお水のように見えるのはなぜでしょう? とても不思議で神秘的でした。

《静かな水(テムズ川、例として)》(部分) 1999年  15点の写真と文字のオフセット・リトグラフィー/非塗工紙 Courtesy of the artist and Hauser & Wirth  © Roni Horn Photo: Koroda Takeru

《静かな水(テムズ川、例として)》(部分) 1999年  15点の写真と文字のオフセット・リトグラフィー/非塗工紙 Courtesy of the artist and Hauser & Wirth © Roni Horn Photo: Koroda Takeru

上の作品は展示されていた中で、一番心の奥で好きと感じた深い海のように見える写真です。

濃いブルーのなかに垣間見えるエメラルドグリーンの水面を照らす柔らかい光に、思わず足を止めました。心が落ち着き、なのに切なく、ずっと見ていられる一枚です。

探求心に遊び心……ロニ・ホーンの意思や心を感じた作品

《死せるフクロウ》 1997年 アイリス・プリント/紙 Courtesy of the artist and Hauser & Wirth ©Roni Horn,Photo: Nagare Satoshi

《死せるフクロウ》 1997年 アイリス・プリント/紙 Courtesy of the artist and Hauser & Wirth ©Roni Horn,Photo: Nagare Satoshi

次はこちらの2つ並んだフクロウの作品。繊細で柔らかい色のフクロウの姿は絵画かと思ったのですが、実は写真作品だそう。どこか違うところがあるのかと思い探してみましたが、違いは見つからず。同じ写真だったと思います。本来ひとつであるはずの2つ並んだ写真を見比べていくうちに、アイデンティティの認識を揺さぶられたような感覚になりました。

《トゥー・プレイス》(部分) 1989-  布装丁の本、オフセット・リトグラフィー	 Courtesy of the artist and Hauser & Wirth  © Roni Horn Photo: Koroda Takeru

《トゥー・プレイス》(部分) 1989- 布装丁の本、オフセット・リトグラフィー Courtesy of the artist and Hauser & Wirth © Roni Horn Photo: Koroda Takeru

写真や本が並べられた真っ暗な部屋。暗い中でスポットライトを当てられた作品たちは、コントラストによって際立つようにも見えます。

“黒”という色の中に海の青い色やさまざまな色のポートレイトを展示していることは、個人的に珍しいと感じました。海や水や、肌にも数え切れないほどの色があり、その色によって世の中には偏見や差別という悲しいジャッジも生まれています。一つひとつの瞬間が創り出す色や一人ひとりの人が持つ色はあまりに違うのに、それを言葉に振り分けるのはなんて難しいんだろう。そんなことを考えられる作品でした。

《ハック・ウィット̶キュウリのハート》 2014年 水彩、ペン、インク、アラビアゴム/水彩画用紙、セロハンテープ Courtesy of the artist and Hauser & Wirth © Roni Horn Photo: Genevieve Hanson

《ハック・ウィット̶青を追いかける》 2014年 水彩、ペン、インク、アラビアゴム/水彩画用紙、セロハンテープ Courtesy of the artist and Hauser & Wirth © Roni Horn Photo: Genevieve Hanson

一度細かく裁断した紙を再びつなぎ合わせて制作されたというこちらの作品。一つひとつにメッセージが描かれているんです。遊び心をくすぐられ、一つずつ読み進めるのが楽しくなりました。明るい色使いのものなども展示されていたので、ぜひみなさんも自分の好きな作品を見つけてみてほしいです。

《あなたは天気 パート2》(部分) 2010-2011年 64点のCプリント、36点の白黒印刷、PVCボードにマウント Courtesy of the artist and Hauser & Wirth  © Roni Horn Photo: Koroda Takeru

《あなたは天気 パート2》(部分) 2010-2011年 64点のCプリント、36点の白黒印刷、PVCボードにマウント Courtesy of the artist and Hauser & Wirth © Roni Horn Photo: Koroda Takeru

大きな空間の中に並べられたひとりの女性の顔。角度、表情など同じものは何ひとつなく、ひとりの人間と向き合う力強さを感じました。普段一緒に過ごす家族、親友、恋人でもこんなにたくさんの瞬間目をそらさずに見つめたことはありません。ロニ・ホーンの追求心が紛れもなく現れている作品でした。

おわりに

この展示会では、BEAMS DESIGNプロデュースによる展覧会オリジナルグッズも発売されています。とってもかわいいですよね。ファッション×アートは私も大好きな組みあわせです!

地図のような大きな作品も展示されていました。

地図のような大きな作品も展示されていました。

今回は私も普段見ているタイプではない作品の展示会で、新しい価値観や世界観を味わうことができました。アーティストの数だけ、新しい世界に触れることができるのが、アート旅の楽しいところ。ぜひみなさんもいろいろな作品に触れてみてくださいね。

Author

アート旅 大石絵理

Ambassador

アート旅アート旅

大石絵理

1993年12月22日、東京都生まれ。高校2年生の時にモデルとしてデビュー。ロンドン留学時代、美術館に訪れたことがきっかけでアート鑑賞が趣味に。モデルとして活動し、アパレルブランド「KOL」をプロデュースしている。また、TV、雑誌、広告と多岐にわたって活動中。

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