【倉方俊輔の建築旅】アートからまちを知る、青森県八戸市へ

青森県

2021.12.27

LINEでシェア
はてなでシェア
【倉方俊輔の建築旅】アートからまちを知る、青森県八戸市へ

建築をきっかけに、その街を新しい視点で見つめる「建築旅」連載。今回ご紹介する青森県は、弘前、十和田、青森市など多くの見どころがある建築の聖地です。なかでも八戸市は“まちづくりがアツい”素敵な街。11月に開館したばかりの美術館を中心に、アートに触れる旅へ出かけましょう。

文・写真/倉方俊輔

※情報は記事公開時のもので現在は展覧会『ギフト、ギフト、』は行われていません。

目次

閉じる

さまざまな動きが共存する空間「八戸市美術館」

アートを通して地域を知る「ギフト、ギフト、」

周辺スポットでさらなる発見

おわりに

さまざまな動きが共存する空間「八戸市美術館」

八戸市美術館

まずは今年2021年11月3日に開館した「八戸市美術館」へ。街の中心部にある広場の向こうには、おおらかな建物があります。これまで見たことがないと思うのは、大きな箱のような形だから。1階・2階といった区切りが分からないのです。

八戸市美術館

でも、圧倒される雰囲気はありません。グレーの壁は、下の方が少し濃くなっています。目の前の広場も、それに似た色で覆われています。よく見るとオフホワイトや薄いピンク色も混ざり、柔らかくて、ざっくりした感覚。「どうだ、格好いいでしょう!」と背筋をピンと伸ばした都会の建築とは、また違った繊細さを感じます。

中に入れば、包容力はより一層。この美術館が斬新なのは、これまでの「もの」としての美術作品の展示が中心だった美術館とは違って、「ひと」が活動する場所を一番の真ん中に据えたこと。来館して最初に出会う「ジャイアントルーム」と名づけられた天井の高い空間では、さまざまな活動が行われます。

八戸市美術館

床に置かれた白いスチールケースの中には、机や椅子や脚立などが収まっています。それらを並べれば、例えばレクチャースペースに早変わり。大きなカーテンを引っ張ることで、空間を自在に仕切れます。普段から机で打ち合わせをしていたり、ワークショップが行われたり。ここのベンチでひと休みしている人や、外を眺めながらコーヒーを飲んでいる人も一緒になって、いろんな動きが共存する場になっています。それが新しいものに出会ったり、考えたりする契機にもなります。

八戸市美術館

左右が対称で、高いところにある窓から光が注いで、大きなカーテンを透かします。ここは教会? そう感じられるくらいにインパクトのあるスペースは、ラフに使い倒せる空間でもあるのです。

アートを通して地域を知る「ギフト、ギフト、」

開館記念として開催されている展覧会『ギフト、ギフト、』には、そんな地元からの発見が詰まっています。

八戸市美術館

学びの出発点は、八戸を代表する祭りである「八戸三社大祭」。ジャイアントルームのまわりには、性格の異なるスペースの数々が設計されています。それらを生かした展示になっています。外部に面した窓のある「ギャラリー」と呼ばれる部屋には、祭りをモチーフにした作品が並びます。

八戸市美術館

天井の高い「スタジオ」にあるのは、巨大な可動式のオブジェ。「ブラックキューブ」は名前の通りに暗くて黒い展示室ですが、ここでは派手なデコトラを映した写真が、やんちゃで魅惑的な光を放っていました。一般の美術館らしい部屋は「ホワイトキューブ」と名付けられています。ここにも浮世絵があったかと思えば、映像作品も上映されていて、見たことのないものに出会えるワクワク感は連続します。

八戸市美術館

しかし、ごった煮のようなこれらは、どうつながるのでしょうか? 答えに導いてくれるのが、この美術館の設計者である浅子佳英氏・西澤徹夫氏・森純平氏の作品。地元の漁業や祭りの山車、デコトラや花街の建築といった八戸の多様な産物が、実は相互に関係している様子を、ホワイトキューブに置かれたパネルで示しています。

この地域に由来したアートの存在を知ることは、旅する人にも、暮らす人にも同じくらい新鮮でしょう。自分の手で次のアートをつくること、自らの目で発見すること。誰もが「贈り手」であり「受け手」であることを示す展覧会のタイトルは、この建築のコンセプトにつながっています。八戸市に降り立ったこの大きなギフトボックスは、これから何で満たされていくのか。楽しみになってきます。


◆八戸市美術館
住所:青森県八戸市大字番町10-4
開館時間:10:00~19:00 ※入場は18:30まで
休館日:火曜日 ※祝日の場合はその翌日、年末年始

・『ギフト、ギフト、』
会期:2021年11月3日~2022年2月20日

周辺スポットでさらなる発見

八戸ブックセンター

豊かな学びの場が、八戸にはたくさんあります。「八戸市美術館」から徒歩約5分、2016年に開館した「八戸ブックセンター」は、全国でも珍しい公営の書店です。本棚には独自にセレクトされた本が並び、自由に手にとって立ち読みし、レジで購入することができます。

八戸ブックセンター

カフェも併設され、地場の素材も生かしたドリンクを飲みながら読書も楽しめます。本を書きたい人は執筆に使える「カンヅメブース」や「読書会ルーム」などもあって、こんな書店が近くにあったら……とうらやましくなるかも。

◆八戸ブックセンター
住所:青森県八戸市大字六日町16-2 Garden Terrace 1階
開館時間:10:00~20:00 ※日曜・祝日は~19:00
休館日:火曜日 ※祝日の場合はその翌日、年末年始

八戸まちなか広場マチニワ

隣にある木とガラスの建物は、2018年にオープンした「八戸まちなか広場マチニワ」。天候に左右されずに過ごせる多目的スペースです。さまざまなイベントが行われたり、学生が勉強していたり、雪国だからこその暖かさが感じられます。

◆八戸まちなか広場マチニワ
住所:青森県八戸市三日町21-1
営業時間:6:00~23:00 ※貸出時間は9:00~21:00

八戸ポータルミュージアム・はっち

通りをはさんで建つ「八戸ポータルミュージアム はっち」は2011年の開館で、ゆったりしたスペースの中で、地元の人々の活動に出会ったり、工芸品や食の豊かさを発見したりすることができます。

◆八戸ポータルミュージアム はっち
住所:青森県八戸市三日町11-1
開館時間:9:00~21:00

おわりに

八戸市のまちづくりからは、市民の「ラーニング(学び)」に軸足を置いた一貫した哲学が感じられます。旅もまた、いくつになっても、学びです。これからも全国各地の建築を通じて、新しい日本の魅力を連載で紹介していきたいと思います。

Related Tag

#建築 #青森県 #アート

Author

建築史家

倉方俊輔

1971年東京都生まれ。大阪公立大学教授。日本近現代の建築史の研究と並行して、建築の価値を社会に広く伝える活動を行なっている。著書に『京都 近現代建築ものがたり』(平凡社新書)、『東京レトロ建築さんぽ』(エクスナレッジ)など。Peatix「Kurakata Online」や「朝日カルチャーセンター」で、建築の見かたをやさしく学ベるオンライン講座も開講中。

Articles

【倉方俊輔の建築旅】水の都・島根県松江市で出合う美しい建築

【倉方俊輔の建築旅】目的地になる駅「新山口駅」と周辺建築

【倉方俊輔の建築旅】和歌山県・南紀白浜に浮かぶ夢の城「ホテル川久」と周辺建築

New articles

- 新着記事 -

  • NEW

三重県

2022.08.10

わたしも街道を楽しんだ「松阪・ふらり旅」

なお

旅色LIKESライター

  • NEW

東京都

2022.08.10

【今月の旅写真】夏の涼を求めて昭和レトロな街へ~巣鴨・大塚~

こばやしかをる

写真家

  • NEW

神奈川県

2022.08.09

【横浜・新高島】テレワークも週末デートにも。猛暑日でも楽しめるひんやりスポット「S/PARK(エスパーク)」の過ごし方

メンバー

旅色LIKES

  • NEW

愛媛県

2022.08.09

夏を楽しむ! しまなみ海道絶景スポット巡りでフォトジェニックな旅

saori

映え旅

  • NEW

北海道

2022.08.08

サッポロ割でアクティブにいこう! 北海道2泊3日の旅

メンバー

旅色LIKES

  • NEW

香川県

2022.08.08

桃太郎の鬼ヶ島といわれる香川県・女木島で、海“超目の前”の宿に癒され鬼に笑いまくる

とまこ

ドローン旅作家

More

Authors

自分だけの旅のテーマや、専門的な知識をもとに、新しい旅スタイルを提案します。

旅色LIKESライター旅色LIKESライター

なお

写真家

こばやしかをる

旅色LIKES旅色LIKES

メンバー

映え旅映え旅

saori

ドローン旅作家

とまこ

ホテル評論家

瀧澤信秋

編集部

アベ

自転車旅自転車旅

土庄雄平