小林エリカの旅と創造 カメラの向こう側

小林エリカの旅と創造

#25 カメラの向こう側
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赤・青・黄やピンクの戦隊服に身を包んだヒーローが敵と戦う。
ジャンプ、キック、バク転。
分厚いブラウン管式のテレビの向こうで繰り広げられる、戦闘シーン。

子どもの頃、私は戦隊ものが好きだった。
なかでも一番興奮するのは、その戦いの舞台が自分の知っている場所だったとき。私は見慣れた近所で、ヒーローや敵が駆け回る姿をテレビの向こうに見ては、声をあげた。
「ここ、光が丘公園! ここ、西友OZデパートの広場! 」
時々は、その撮影現場を見かけることさえあった。大きな黒いカメラに、灰色のふさふさとしたマイク、大勢の大人たちがカメラの後ろでも駆け回っていた。

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我が家は東映撮影所の近くにあった。そのせいか、テレビやアニメを創るということが、至って日常と地続きで、ごく身近なところにあった。
近所のおばちゃんは、「アルプスの少女ハイジ」のセル画塗りをやっていたし(今思えば凄い)、学校の同級生はしばしばバスで変身前のヒーローたちと乗り合わせていたし(子ども心にヒーローもバスに乗るのかと意外だった)、撮影所の近くへ遊びに行くたびに私は門の中を覗いては発泡スチロールでつくられた謎の岩とかを見た(いつでも門は大きく開いていたしガードも緩かったのだ)。

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この世には、私が観るテレビやアニメを、そのカメラの向こうで創っている人たちがいる。
子ども心に、それは驚きでもあり、感動でもあった。
もしかしたらそこは私が一番身近にはじめて見た、創造の現場だったのかもしれない。

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先日、ごく久し振りに実家の近くへ行った。
東映撮影所はすっかりぴかぴかになり、すぐ手前にはシネマコンプレックス、向かいには東映アニメーションミュージアムが出来ていた。ガラスの壁の向こうに並ぶピンクやブルーの髪のプリキュアたちと、それを窓越しに夢中で見つめる子どもたちを眺めつつ、私は感慨深い気持ちになった。

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この頃も、戦隊もののロケをこの近所でやることは、あるのだろうか。
さすがに撮影所の門はきっちりと閉じられていた。
近所でセル画塗りをやっているようなおばちゃんも、もういないのだろう。
それでもなお、ここで創られたテレビやアニメは昔と変わらず子どもたちを夢中にさせている。そんな子どもたちもやがてまた大人になって、この撮影所を訪れた日のことを想うだろうか。今でも東映の三角マークを見つけるたびに、私はいつも胸が熱くなる。

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小林エリカ
Photo by Mie Morimoto
文・絵小林エリカ
小説家・マンガ家。1978年東京生まれ。アンネ・フランクと実父の日記をモチーフにした『親愛なるキティーたちへ』(リトルモア)で注目を集め、『マダム・キュリーと朝食を』(集英社)で第27回三島賞候補、第151回芥川賞候補に。光の歴史を巡るコミック最新刊『光の子ども3』(リトルモア)、『トリニティ、トリニティ、トリニティ』(集英社)発売中。